近藤金吾著『壺屋のひとりごと』を国立国会図書館に

(2018.4.30)
京都の[古美術近藤]を主宰した故・近藤金吾氏は、須田剋太の活動に大きな貢献をされたと、須田剋太に関わった幾人かの人たちが尊敬をこめて語るのをきいて、先日祇園にある店を訪れた。→[「大和丹生川(西吉野)街道」-挿絵の地をめぐる国内最後の旅]

近藤金吾氏は1990年に自身の古稀の祝いを大徳寺芳春院で催し、それにあわせてまとめた自伝『壺屋のひとりごと』を刊行して、参加者に贈られた。
僕もぜひ読んでみたいと思ったが、インターネットで検索しても、全国どこの図書館にもない。
須田剋太と縁が深かった日本橋の秀山堂画廊を訪れた折り、そこでお持ちなことがわかり、お借りして、ようやく読むことができた。

『壺屋のひとりごと』掲載の須田剋太『酉歳新春』

自費出版ということなので簡素なものを思い描いていたのだが、ハードカバーで図版も多数おさめてある。須田剋太だけでなく、土門拳、魯山人、川端康成など、いろんな人についての記述があり、美術史的価値が高いものと思えた。
画商はアーティストと関わって作品が世にでるのに貢献しているが、世の人は作品を見ることはできても、画商がどのように動いているのかは外からはほとんどうかがえない。そうしたことが書かれている点でも貴重なもので、1冊は図書館にあるべきものと思った。
ところが、祝いの集まりで限られた人に贈られたものだから、お持ちの方それぞれに大切な本で、あらたに入手することは不可能に近い。
おおもとの[古美術近藤]でも1部きりお持ちでなくて、とうぜん手放すわけにはいかない。
大阪の老舗の古書店、天牛書店で扱われた記録があったが、次に古書店に現れる機会はなかなかないだろう。

須田剋太の作品の額を多く作られた金田明治さんという方が大阪に住んでおられる。金田さんにも図書館に置きたい気持ちを伝えると、須田剋太、近藤金吾氏ととくに親しかった金田さんは2部お持ちで、そういうことならぜひと1部を提供いただくことになった。
どの図書館にするかについて、[古美術近藤]の地元の京都とか、金田さんがお住いの大阪とかも考えたのだが、全国に1冊だけとなるとやはり国立国会図書館に置くべきと考え、納本(寄贈)した。
アーティストやギャラリーの人は、アートには集中するけれど、アーカイブには関心がうすいことが多い。もともと僕には印刷物は図書館におさまって完結という思いがあって、親しいアーティストの著作や展覧会図録を、余計なお世話かもと思いつつ、これまでも国会図書館や関連図書館に寄贈してきた。
須田剋太については、多くの人から多くのことを教えられてきた。
『壺屋のひとりごと』を国立国会図書館におさめることで、大きくいえば須田剋太とそれに関わった人の貴重な記録の1つを確実な歴史に残したともいえるかと思う。僕がしたこと自体はささやかなものだが、お世話になった方たちへいくらかの恩返しになったかもしれない。